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 日本ろう者武道連合柔道強化合宿(全日本Jrとの合同練習)レポート
  1. 開催期間  平成24年2月11日(土)〜12(日)の2日間
  2. 開催場所  東京都 味の素「ナショナルトレーニングセンター」
  3. 主   催  日本ろう者武道連合、全日本柔道連盟
  4. 参 加 者

    【指導者】
     中田 善久(六段) セコム株式会社、全日本柔道連盟 教育普及委員
     江上 忠孝(五段) 九州電力株式会社 柔道部監督
    【日本ろう者武道連合】
     会 長  宮下 昭宣
     選 手  山田 光穂(五段)、吉良 暁生(三段)、東岸 林太郎(三段)
            木ノ下 寿(二段)、内野 敬太(二段)の5名
     事務局 大槻 ゆかり                          参加者:敬称略

  5. 内  容
  6. 【合宿目的】
     今回の強化合宿の目的は、平成24年5月26日に韓国ソウルで開催される第7回アジア太平洋ろう者競技大会(通称:ソウル2012)を見据えた代表選手の強化である。
     また、(財)全日本柔道連盟の協力をいただき、全日本ジュニア・カデ強化合宿に参加し、全日本トップレベルの練習に参加することで、技術力やモチベーション向上につながり、また、選手同士の交流を図る。

    【ろう者選手の練習環境】
     ろう者選手たちは、聴覚障害というハンデを抱えながらも、柔道と出会い、柔道を通じて目標を定め、毎日を活き活きと生活している。
     しかし、彼らの練習環境は大変厳しく、全国のろう者学校に柔道部がないため、地域の町道場などに所属し、道場まで何時間も車を走らせ練習している状況である。
     また、社会人になると更に厳しく、仕事が終わる時間帯と近くの高校や大学の練習時間と合わず、週末に町道場や高校の練習に参加する程度であり、慢性化した練習不足が存在している。
     ろう者選手たちは、こういった劣悪な練習環境の中で、日々自分と向き合い、体力維持・向上のため深夜・早朝の時間を使い、ランニングやウェイトトレーニングなど努力を積み重ねている。

    【全日本ジュニア・カデ強化合宿】
     強化合宿への参加日程は、2/10午前・午後、2/11午前の計3回の練習を行った。
    具体的には、午前中は寝技を行い、午後からは立技を行った。
     ろう者選手たちは、全日本ジュニア・カデ強化選手と一緒に、寝技の補強練習や打込みから乱取練習(攻撃・防御の稽古)まで、量・質ともに素晴らしい、厳しい練習に汗を流した。
     特に乱取前の補強練習では、徹底的に行われる基本練習(脇締め、えびなど)に息が上がり苦しむ選手もいたが、改めて基本練習の大切さを再認識できた。
     また、乱取練習では、全日本強化選手(中学生〜大学生)と激しく練習を行い、レベルの高い練習となった。ろう者の選手たちは、全日本強化選手と互角の勝負をするが、後半になると体力不足が顕著に現れ、投げられる回数も多くなっていた。

    【課題の発見】
     試合時間5分間を戦い続けるだけの体力や持久力、それに加えて集中力などを強化することが、今後の課題であると感じた。
     また、その中でも、前回デフリンピック金メダリストで日本チームの主将である山田光穂(五段)は、年齢のせいか練習終盤でスタミナが切れて、練習を途中棄権するシーンもあった。劣悪な練習環境の中で強靭なスタミナを維持するためには、徹底した走り込みや下半身を動かすトレーニングなどを積み重ねて、「最後までやり抜く」身体を作ることが重要である。
     以上のことから、山田選手は今回の合宿でデフリンピック連覇に向けて多くの課題が見つかったようだ。

    【かけがえのない経験】
     全日本ジュニア・カデの強化選手がどのような練習環境で合宿を行っているかが分かったことと、今回のような全日本合宿に「全柔連の協力」を得て実現できたことは、ろう者選手にとってかけがえのない経験となった。
      アジア大会に向けて、良い準備が出来たと思う。

    【新たな出会い】
     今回の合宿には、視覚障害者の柔道選手も参加していた。実際に一緒に練習や交流を行うことは出来なかったが、自分たちと同じように身体にハンデを抱えながらも一生懸命に練習に取り組む姿勢を見て、ろう者選手たちも励みになるとともに、自分たちも頑張らなければという気持ちになったと思う。
      今後は、視覚障害者の柔道選手たちとの交流も積極的に図れればと思う。

    【感謝の言葉(ろう者選手たちの声)】
      全日本強化選手との合同練習を終えて、ろう者選手に感想を聞きました。内容は以下のとおり(一部を抜粋)。

    • 寝技には自信があったが、まだまだダメだと思い知らされた。
    • 今の自分のレベルの低さを痛感した。
    • もっともっと、今回のような練習をしたいと思いました。
    • 全国の強い人たちと交流練習をしたい。
    • 気持ちも身体も技も未熟である事に気づかせてもらった。
    • 全日本柔道連盟の関係者の皆様に感謝しています。
    • 今後のスキルアップにつながる練習となりました。
    • 視覚障害者の方との交流が出来なかったことは残念です。
    • 聴覚障害者の柔道を知ってもらえて良かったです。
    • 更なる稽古が必要であることを痛感しました。
    • 最後までやり抜く強い意志を持てるように精進したい。
    • 健常者の世界でも結果を残せるように精進したい。
    • 柔道は健常者の世界レベルとろう者の世界レベルは違っても、障害あるなしに関係なく、オリンピックや世界を目指すような気持ちは一緒であることが分かった。
    • カデ選手がジュニア選手に果敢に挑む姿勢(自分よりも強い相手に挑む姿勢)を見て、忘れかけていた大切なものを思い出すことができた。
    • 社会人となった今、柔道漬けのような毎日を送ることは厳しいが、少ない時間の中で、どれだけ自分を追い込むか、どれだけ向上心を持って練習に参加できるか、限られた時間を大事に有効に使って行きたいと思う。
    • 全日本合宿という、なかなか機会のない場を設定してくださり、貴重な体験をさせていただきました。
    • この合宿で得たものを世界大会、デフリンピックで活かしたい。
    • 日本トップレベルの選手と一緒に練習することで、自分の弱点が浮き彫りになった。
    • 全日本合宿を通じて、日本トップレベルの選手から学び得ることが多く、心技体を鍛錬することができた。  ・・・など。

    【総評】
     これまで、ろう者柔道と出会い、彼らの柔道に対するまっすぐな気持ち、柔道に対する熱い気持ちに心打たれ、彼らを応援する一人になろうと思い、今回の合宿にも指導者として参加してきました。
     この全日本強化合宿への参加は、一重に全日本柔道連盟普及課の先生方や全日本ジュニア強化の先生方のご理解とご協力の賜物と感謝しております。
     また、合宿の合間に同連盟の上村会長から、「今後の聴覚障害者の柔道について支援・協力する。」との力強いお言葉をいただきました。
     日本ろう者武道連合の宮下会長は「柔道に健常者と障害者の壁はなく、柔道を通じて心と心の交流ができ、目標を持つこと、同じ目標を歩む仲間を得ることで生きがいも得ることができる。」と柔道の素晴らしさを述べられました。
     しかしながら、ろう者柔道選手の競技者人口は少なく、現在の日本代表選手たちも30歳前後の選手が多い状況です。今後は、ろう者の方で柔道を志す人がいれば、安心して柔道を始められる、練習に打込める環境整備が必要と考えます。
     そのためには、全日本柔道連盟の協力は勿論、各地域の柔道協会のご理解・ご協力が必要であると共に、私たち一人ひとりが、ろう者の方々と一緒に柔道しようと思う気持ちが大切だと思う。

    以  上

【練習風景:写真】

九州電力株式会社 柔道部監督 江上忠孝