イベント



 2005年 第30回ジャパンウィーク(イタリア)に参加して
ジャパンウィークの趣旨
年1回の周期で開催されるジャパンウィークは、財団法人国際親善協会が主催者となり、後援には国土交通省、文部科学省、経済産業省等の協力によって開催されています。
このジャパンウィークは日本武道や文化の紹介と、日本とイタリア共和国との友好親善・相互理解を目的としています。また、日本武道代表団においては、日本武道の真髄を演武披露するとともに、現地武道修業者の指導・稽古等を行い、武道を通じて国際親善(世界と日本の架け橋)に寄与し、武道を愛する指導者・競技者・愛好者の育成と新たな理解者の獲得を目指しています。
イタリア共和国のスポーツ事情と柔道
2006年にはトリノで冬季オリンピックも開催されますが、イタリア人の一番人気は、なんと言っても「セリエA」に代表されるサッカーです。日本人選手も活躍しているセリエAは原則として9月から翌年5月末までの日曜日に行われています。チケットは前日まで市内のチケット売り場、当日はスタジアムで販売しています。また、サッカー以外のスポーツ競技の運営資金は、日本でいうサッカーくじ(TOTO)等で得た資金の一部を、各競技の実績に応じて割り振るという特殊なシステムで運営されているそうです。柔道のイタリアスポーツ界での格付けは、サッカー人気には及びませんが、2000年シドニー五輪で金メダルを獲得する選手が出る等、着実にファン層を増やしているようです。
イタリア・ナポリの車窓から〜ごみ・失業者・強盗・スリ〜
イタリア・ナポリ市でよく目に付くのは、脇道に転がるごみの山です。紙くずやビニール類等、様々なごみが道端に散らかっています。特にひどいのは観光地から一本裏に入った路地等です。風でごみが舞い上がり、その惨状は目を覆いたくなるほどです。また、失業者の数もイタリア南部にいくほど上昇し、実に国民の約4割が失業者です。ですから、町や駅で見かける大半の人々が失業者ということになります。その失業者の大半が窃盗やスリ等の常習犯で日本人等の観光客を狙ってスリや置き等を引き起こすことも珍しくありません。特に日本人というだけで、スリ集団の標的にされやすく、ロレックス等の高価な時計はできる限り外出時は外した方が良いそうです。
イタリアの気候
国土が南北に細長いので、南北の温度差が大きいことや四季がはっきりしている点等、日本と酷似しています。また、日本より緯度が高く夏は午後8時頃でも明るく、冬は午後5時には暗くなり、湿度は低く朝夕の気温差は激しいと言われています。私が訪問した11月は風雨が強く、一日中天気が悪かったため、ナポリ市を代表する情景、サンタ・ルチア港も灰色にフィルターがかかり、せっかくの美景が台無しで少々残念でした。
イタリアの食べ物
イタリア人はとにかくよく食べます。前菜に山盛りパスタ、数種類のピッザァ続いて、300gの羊の肉、そして最後に甘すぎるジェラートが運ばれ、お腹もパンクしそうになるほどの量です。食事の後もワインを飲みながらダラダラと夜遅くまで会話を楽しむのがイタリア流です。しかし、意外なのがトマトの消費量で、2001年のFAO(国連食料農業機関)の調査では世界第10位と低い。それでも一人あたり年間消費量は63.6kgとすごい。ちなみに日本人は約8.9sを年間消費しています。
イタリアの道路事情
ナポリ市内はとにかく交通マナーが悪い。「どうやって停めたの!?」と目を疑いたくなるような2〜3列路上駐車や一方通行だらけの道路、そして高速道路では無理な割り込みや、追い越しは当たり前で、時には時速150km以上で通り過ぎる走り屋も登場します。また、市内でよく見かけるのがバス・トラム(日本では路面電車)です。朝の通勤ラッシュの時間帯(8時〜9時)、ナポリ市民の交通手段として活躍しています。ただし、車内は市街以上にスリが多いので貴重品等は常に胸元において一層の注意が必要です。
福岡からイタリアへ
11月22日(火)15時、講道館に召集されたのは、私を含めた6名(@富山県警察柔道主席師範の川口先生、A警視庁柔道教師の道場先生、B仏教大学柔道部コーチの村田先生、C崇徳学園教諭の加美先生、D桐蔭横浜大学講師の増地先生)です。講道館では全日本柔道連盟事務局長の津沢先生から「日本柔道の使命」等の説明があり、今回のイタリア派遣の趣旨が理解でき、気持ちが引き締まりました。そして、私たちは演武会で行うプログラムを決定すべく、前回ポルトガルで開催された演武会のビデオを視聴し、講道館内の道場で約2時間リハーサルを行いました。各演武者が役割を認識し限られた時間内で、どのような演武すれば日本柔道の心(精神)が、見ている側(第三者)に伝わるのか川口先生を中心に汗だくになりながら、夜遅くまで協議し確認しました。その結果、試行錯誤ながらも中身のある素晴らしいプログラムが完成しました。
11月23日(水)8時、日本武道館B1小道場に柔道の他に現代武道8道、古武道2流派が集い、日本武道館会長の塩川正十郎(元財務大臣)団長を中心として結団式が華やかに開催されました。結団式では、選手の紹介や日本武道の歴史の説明があり、重々しい雰囲気の中、出発前の儀式が厳粛に行われました。
日本からイタリア・ミラノまで飛行時間は約13時間、実に映画を3本(1本3時間)観賞できます。また、ミラノからは乗り継ぎで、ローマまで更に約2時間かかり、最終目的地のナポリまでは、ローマから高速バスに乗り換えてから約2時間かかり、全体の所要時間は約17時間と体力と忍耐が必要です。
ナポリ市の町道場
私たち柔道チームは他の武道派の先生方が観光に行くのを横目に、日程どおり、2日目はイタリア・ナポリ市内のクラブチーム(約120名)と交流稽古を行いました。道場までの送迎は地元の柔道協会の方々がお世話してくれました。交流稽古は夜19時頃から初心者や子供を対象にして約1時間指導して、20時から有段者を対象に指導及び乱取り稽古を行いました。座礼から始まり、補強運動、打ち込み、乱取り、技の指導と積極的に汗を流しました。イタリア柔道は、ヨーロッパの中で、フランス・ドイツ・オーストリア・ロシア等の強豪国に比べて、全体的なレベルは少し落ちますが、寝技(固技・関節技・絞技)は一級品で日本ではあまり見たことのないような技(日本人も学ぶべし)を子供から有段者まで器用に使いこなしていました。一方、立技では、組み手・崩し・連続技等、力任せで粗く雑な部分が多く、私たちも基本から応用編までポイントを絞って指導することができました。
3日目はヴェスヴィオ火山の南側、世界遺産であるポンペイ遺跡の近くに位置するクラブチームとの交流稽古を行いました。ちょうどこの日は、交通会社等の賃上げストライキと重なり、当初予定していた参加者が集まらずに15名程度でした。しかし、3日目はイタリアの柔道指導者を集めての技の指導となり、寝技・立技と細部にわたり、熱のこもった意見交換ができて非常に有意義な時間だったと思います。特にイタリア人は日本柔道の「技の美」、「心(精神)の美」について非常に高い興味と関心があることに気付かされました。嘉納師範の教えの中核でもある「礼に始まり礼に終わる」等、柔道の心は、海を越えてイタリア・ナポリの小さな町道場でも、その教えは忠実に継承されていました。
イタリアでは、この礼の心を通じて相手を「思い・尊ぶ」気持ちが着実に継承され、人格形成の一助となっている事がわかりました。
私は、この交流稽古で異国の地で受け継がれる「日本柔道の心=和心」を、一人でも多くの少年柔道家やその他の若者に伝えなければと、心に強く感じました。
イタリアでの夜
2〜3日目共にクラブチームの交流稽古が終わると、その地区の柔道協会の方々に手厚い歓迎会を用意して頂きました。特に2日目は、稽古が終わり22時頃から調子が右肩上がりとなり、深夜2時過ぎまで終わることのない宴の席が続きました。言葉はうまく伝わりませんが身振り手振りと、発音の悪いひどい英語を組み合わせて約4時間あまり、ひたすらにワインを飲み続けて、現地柔道協会の方々と懇親を深めることができました。3日目も同様ですが、イタリア人の温か過ぎるもてなしに、心と体が癒されて、一生忘れることができない思い出となりました。
ジャパンウィーク演武会
4日目ナポリ市郊外に位置するパラベスヴィオ屋内競技場(競輪場?)が、今回の演武会の会場となり、各道派の先生方も緊張した様子でした。会場内は柔道場(畳)と剣道場(板)が用意され照明や音響等もプロのイベントスタッフが入り、演出効果等を念入りに調整していました。演武者の控室は四方コンクリート打ちっぱなしの壁床で、ストーブ等の電熱器がないと凍えるほど寒かったです。特に裸で演武する相撲の方々は見ているだけで本当に寒そうでした。
午前中は各道派ワークショップ(武道体験会)を実施し、約500名の参加者があり盛大に開催されました。柔道も初体験の子供たちも参加して、受身から打ち込み等、短い時間でしたが、柔道を通じて言葉は通じませんが、終始、笑顔と驚きの表情が耐えない有意義な時間となりました。あの時の子供たちの笑顔と小さな好奇心は忘れることができません。
午後からは演武会のリハーサルをプログラムに準じて行い、柔道も18分間の演武を行い、最終の確認をしました。特に川口先生は、細部に渡り指導してくださり、演武者のリーダーとして私たちを引っ張ってくださいました。本書文中にて誠に簡単ではありますが感謝申し上げたいと思います。
そして、17時となり、いよいよ演武会の開会式が始まりました。まず、始めに塩川団長からジャパンウィーク演武会の趣旨やイタリア・ナポリ市民への表敬の言葉があり、華々しく盛大な開会宣言となりました。会場内はイタリア・ナポリ市民で満席となり、ジャパンウィークの様々なプログラムの中でも一番の盛り上がりだったと思います。
演武会の中身も各道派の精神がイタリア・ナポリ市民に伝わったのか会場が割れんばかりの拍手と喝采に包み込まれました。勿論、柔道も当初予定していた演武内容を何回と練習するなかで微調整し、再度練り上げて本番に挑んだため、演武者も自信をもって体現することができたと思います。特に盛り上がったのは、柔道の演武が終わった後の体験武道でした。イタリア・ナポリで柔道をやっている少年たちが集まり、私たちと試合形式で乱取りをやったのですが、会場全体と演武者との一体感を感じることができて本当に幸せな瞬間でした。そして、今回の演武会が大成功に終わったことを確信できました。
最後に
今回のイタリア・ナポリ市で開催されたジャパンウィーク演武会に参加して、日本武道の真髄とは何か、柔道の教えの原点はどこにあるのか・・・そんな大きな果てしない視点で物事を考えなければいけないことを、実感させていただきました。まさに、柔道は他武道と比較しても、交際化の伸展が激しく、東京オリンピック以降、正式種目として定着しています。全世界の国と地域に、日本で生まれ育った柔道が普及し、柔道の心と技が継承されているという現実に触れて、これまで尽力された嘉納師範を始め諸先輩方の熱意を肌で感じることができました。
私は、まだまだ、柔道のことをそれほど多くは知りませんが、歴史に学び、先人たちの息吹を現世に受け継ぎ、次の世代へ確実に引き継ぐことが大切だと思います。
個人的には、今の自分に何ができるのかを、まずよく考えて、柔道の魅力が九州の地域の方々に少しでも広まるように努力していかなければと思います。
また、日本柔道がこれからも世界中の人々に愛されるように、そして、しっかりとした足跡を残せるように、すべての柔道経験者が知恵を出し合い,サポートしていかなければならないと感じました。

2005年11月22日(火)〜29日(火)   江上忠孝