イベント



 ラオスへの柔道指導派遣へ参加して
時 期  2008年7月16日〜23日
参加者  前田 貴志
派遣経緯
西日本実業柔道連盟が主要事業の一つと考える、近隣国の柔道普及拡大を目的とする国際交流と、国際感覚を身に付けた柔道指導者の育成を継続して行なうことを目的とし要請がありました。
指導にあたって伝えたいこと
私にとっては、インドに続いて2回目の海外指導になりますが、その時にも掲げた、スポーツとしての「JUDO」ではなく、武道としての「柔道」を学んでもらい、「ポイント重視のJUDO」ではなく、「技をもって一本を取る柔道」を目指してもらいたい。そのためには、きちんと組んで、姿勢は正しく背筋を伸ばし、体捌、崩しをもって技を掛けることを指導したいと考えました。と、建前はそういう事にしておきまして、本来の目的は、日本では誰も真似してくれない、私の柔道(多少変則?)を世界に普及させることを目的として指導にあたりました。
派遣メンバー紹介
団 長:




山本裕洋先生(旭化成アミダス 八段 連盟副理事長)
指導時、大外刈り大内刈り、審判方法の講習をしていただいたのですが、分かりやすく、理にかなっていました。圧巻されたのは、組み手の指導の時の手首の強さ。喧嘩四つの時、吊り手を私が上から押さえ、肘を入れる役だったのですが、先生の手首が強くて入れることができませんでした…。流石です。参りました。
副団長:



瀬戸口正征先生(元大阪ガス 六段 連盟事務局長)
渡航中、絶えず私たちの身の回りのお世話をしていただきました。指導時は実際に生徒達と乱捕りをやられ、学生時代に対戦経験のある、菊池先生と久しぶりの再戦ということで、寝技の勝負をやられていました…。凄いの一言でした。
指導員:















小山敬上(大阪ガス)
私とは同級生。色々と頼りにしていました。指導期間の始めに膝を捻ってしまい、テーピングをガチガチに巻き、無理しなくてもいいといっても、乱捕りをこなしていました。正統派の素晴らしい柔道家です。内股、隅返しを指導。
砂原 芳徹(近畿通関)
独特の背負い投げ、大きいものを投げる背負い投げの持ち主。生徒パンちゃんを徹底指導し、背負い投げを伝授していました。「ラオス、いい〜」を連発し、ラオスの食事、文化、女性すべてに感動。半年後にはまたラオスに行くと誓っていました。
佐多 俊彦(東レ滋賀)
パワフル柔道。豪快な払い腰と掬い投げ、小外指導。
体幹トレーニングの伝道者。生徒が、基礎トレーニングの時に自ずとやるほど良いトレーニング方法を伝授してくれました。私たちといる時は見せてくれないが、女性人と写真を撮る時に見せる笑顔が本当に素晴らしい(ヤラシイ)男でした。生徒からは、私とは兄弟なのかと質問されましたが…。ヤラシイところが似てたみたいです…。
指導者全員集合
寝食を共にし、常に楽しくワイワイと騒いで(飲んで)いました。指導時はみんな真摯に接し、柔道が好きなのだということが、ありありと伝わってきました。本当に素晴らしいメンバーでした。
ラオス指導者
菊池正敏先生(九州大学出身 六段 JICA シニアボランティア)
ラオス柔道のナショナルチームの総監督として、首都ビエンチャンの道場を構え、指導に励まれている。道場や武道館の新設など柔道普及に向けて様々な活動を精力的に取り組まれている。滞在中は、食事、観光、お土産購入、常にそばについて、全て対応していただきました。本当に感謝ばかりです。私もいつか、先生みたいにJICASVへ…。
伊藤心吾先生(三段 JICA 青年海外協力隊)
菊池先生と筆者
サワンナケート県に滞在し、柔道の普及に取り組まれている。指導期間中は、生徒を引き連れ参加されました。
昼夜問わず私たちに付いていただき、堪能なラオ語を駆使し、ラオスを深いところまで教えてくれました…。感謝、感謝。
ラオスについて
正式名称はラオス人民民主共和国。1953年にフランスより独立後、内戦を経て、75年に社会主義国になりました。(ちなみに、フランスの文化で残ったものといえば、「パン」「ワイン」「昼寝」の3つだけとのこと。もちろん、3つとも堪能してきました。)また、日本はラオスにとって政府開発援助(ODA)で最大の支援国であり、今後ともいろいろな面で交流が期待されています。場所は東南アジアで、タイとベトナムに挟まれたところに位置し、唯一の内陸国です。面積は日本の本州程度、人口は北海道と同規模の580万人程度。日本との時差は−2時間。言語はラオ語ですが、タイ語とほぼ一緒とのこと。英語は多少通じるぐらい。滞在時の気候は雨季でもあったため、ほぼ、福岡と同じで、ジメジメ、ムシムシとしていましたが、耐えれないほどではなかったです。羨ましいことに地震や台風は全くないそうです。送電線設備も日本と違って簡単でした。電力は雄大なメコン川を有し、豊富な水で水力発電し、また、電気を隣国タイに売って、外貨を稼いでいるそうです。
ラオスにおける柔道の現状について
全日本柔道連盟国際委員会在外委員の菊池正敏先生の指導のもと、昨年開催の「東南アジア競技大会(シー・ゲームズ)」において、金メダル2、銀メダル1、銅メダル3つを獲得し、昨秋の「第1回講道館形選手権大会」では、「柔の形」、「投げの形」でそれぞれ5位入賞を果たしている。柔道人口は約100人。小学生〜大学生が主流。(今回の派遣先では、そのうち50人を指導しました。)7月末には「第1回オールラオ選手権」を開催し、来年には「シー・ゲームズ」を地元ラオで開催予定。
実力的には、シー・ゲームズメダル獲得者は基本もしっかりできており、日本の大学生程度の実力を有していたが、それ以外の者とはかなりのレベル差がありました。形においては、演舞を披露してもらいましたが、たいへん素晴らしく、全日本選手権で観られる形よりも、スピード感あふれるものでした。私は日本人で、段も有するのに、まったくできないのは恥ずかしい限りでした。
うまい食事
カオニャオというもち米を主食に、おかずはタイ料理と同じく、パクチーをはじめとした香草たっぷりの料理でした。香草にやられることなく、最後までおいしくいただけました。
感動料理
  • ラオビール…日本のビールに近い味で、濃厚な味わい。昼夜問わず、最高でした。
  • フルーツ…さすが南国。いろんなフルーツがいっぱい。特にジュースはその場で、ジューサーでつくってくれるのですが、日本だと500円以上するものが、50円でいただけます。
  • パン…フランスの忘れ形見。焼き立てで、野菜チーズ、ハムなどがたっぷりで、なんと80円。
  • やっぱり香草…ビーフンのラーメンと共に、皿いっぱいの香草がでてきた…。
  • 卵…河原の出店で買った卵を割ると…、中から孵化途中の雛が…、私は食べませんでした。
  • ラオコーヒー…濃い目の味です。
食材ばかりで、料理の紹介じゃないみたいになりましたが…、美味しいものばかりでした。
交通事情
日本とは逆の右側走行。信号はほとんどないが、あっても信号を守らずに走っていました…。基本的な乗り物はバイク。3人乗りは当たり前。一家に1台所有といった感じだそうです。とにかくすごい量の荷物を、これでもかというぐらい器用にバイクに積んでいました。お手製のサイドカーに子どもを乗せてたり、やりすぎ感がありましたがスピードは全体的に控えめですので事故は少ないみたいです。町の観光用には「トゥクトゥク」という、バイクの後ろに乗客用の箱型の台車を付けたタクシーのような乗り物があり、何度か乗りました。日本人を見つけると、「ヘイ、トゥクトゥク」ってうるさいくらい話しかけてきます。怪しいところに行きたい方は、彼らに案内させたら連れてってくれるみたいですが…。
国民性(柔道をとおして、勝手に解釈)
のんびり、マイペース。柔道の基本トレーニングをやる意味を説明して、よし、やろうとしても、露骨に「えー」って言っていましたし、「僕は怠け者だから」と堂々と言うツワモノもいました。「シー・ゲーム」でメダルを獲った子たちには、賞金として約40万円が与えられたそうですが、現地公務員の年収が3万6千円ということで、10年以上分が貰えるというのに、皆さんのんびりやっていました。曰く、河にでれば魚は釣れるし、果物はそこらへんに生っていて食べ物に困らない。年中暑いから、夜に野宿でも困らないとのこと。お金には無頓着で欲張らず素晴らしい国民性とは思いますが…。でも、みんな真面目であることは確かでした。教えられたことを不器用ですが、頑張ってやっていましたし、純粋でキラキラした瞳で練習をしていました。
指導内容
練習は1日2回、朝は9時30分から12時まで、夕方は4時30分から7時まで。それぞれに、立ち技、寝技の乱捕りは入れましたが、具体的な指導は以下の通り。
1日目
  • 足払いの一人打ち込み
    最初の準備体操で生徒側が行なっていたのですが、ただ、こなすだけのものになっていたため、投げる相手をイメージして、相手の足が浮く瞬間、または、付く瞬間を狙って掛けるよう指導。と、言ったらかっこいいのですが、この時、菊池先生方は、挨拶回りに行っておられ不在。言葉が通じず、強引に押し通しました。何人かには英語は通じるみたいですが、私たち(主に私)の語学力が足りず、先が思いやられると感じました。海外指導に英語は必須を強く感じました。
  • 背負い投げ、内股
    背負い組、内股組みに分かれて、打ち込みと投げ込み、大内からの連絡技を指導。
    背負いは砂原式背負い投げ。相手の股下に飛び込み、相手の股の中でジャンプするように伸び上がり、テコの原理で相手を真下に叩きつけるイメージ。私が見ても特殊な背負い。今後、ラオスの背負い=砂背負いとなるか…楽しみです。
    内股はオーソドックスを指導しましたが、生徒たちの軸足の安定感が乏しかったため、踏み込みを強く入ることと、壁打ち込みで足の運びを覚えさせる練習方法を指導しました。
  • 五人掛け
    私と佐多が立って、試合形式の一本取り。最初に実力差を見せて、指導をしやすくするために行ないましたが、五人が終わるころには、かなりバテました。歳を感じます。まあ、何とか抜いて威厳を得ました。これが終わった後に、日本の技をもって一本をとる柔道を今回の合宿で学んでほしいことを伝える。そのためには、姿勢、組み手、崩し、作り、掛け、そしてただ練習をこなすだけではなく、何のためにやっている練習なのか、イメージをしっかり持つことの大切さを伝えました。
  • エピソード@
    午後練習で、日が暮れてくると、故障のため道場の電気がつかない事が判明。しかし、生徒達は動揺することなく、手馴れた感じで自分たちのバイクを並べ、ライトを点灯させ立ち技を続けようとしていました。しかし危険と判断し、寝技へ変更しました。全日本も取り入れた、暗闇練習を自然に取り入れているようでした。二日目には改修済み。
  • エピソードA
    晩飯後、たまたま生徒たちの宿舎が近くだったので、差し入れを持って押しかけにいきました。ビルを貸しきって、生徒たちが寝泊りしていましたが、みんな歓迎してくれました。ラオス各地から集まってきているので、首都ビエンチャン滞在をみんな修学旅行気分で楽しそうにしていました。
    親近感を持ってくれたかな。
2日目
  • 体幹トレーニング
    3種類(左右)×20秒。柔道で最も必要な体幹の力を鍛えるトレーニング。地味でキツイ。手と足を上げた状態で、バランスを取るトレーニングなのですが、みんなフラフラして最初は笑いながらやっていましたが、午後以降、毎回やっていたら、みんな辛そうでした。
  • 寝技の補強運動
    お馴染み、脇絞め、エビ、逆エビ。何のためにやるのかをきちんと説明。毎回やらせていたら、脇絞めで肘がスレ、何人もテーピングを貼って無言のアピール。1回1試合場の片道しかさせていないのに…最後らへんは「え〜」言われました…。
  • 前回り受身
    飛び跳ねずにやっていたので、1人、2人…と亀になった人を跳び越えさせたら、結構みんな上手に跳んでいました。5人を跳び越えさせる時には7人ぐらいになりましたが、その中で小学生の子が余裕で跳び越えました。すごいバネで先が楽しみな子でした。
  • サーキットトレーニング
    8種類ぐらいを10〜20回。種類を変えて以降、練習毎実施。
  • 2人打ち込み
    通常の打ち込み、引き出し、移動打ち込み(単発、連続技)を指導。軸をぶらさず、崩し、つくりを意識するように指導。
  • スピード投げ込み
    有段者のみ行い、得意技1つのみ、投げ手を5人が取り囲み、30本連続で投げ込み。後半のバテた時にでてくる欠点を指導しました。私でもかなりキツイ練習方法で、投げ手はよく頑張っていましたが、受け手の受身が下手で、スピードに乗れていませんでした。
  • 大外刈り、大内刈り
    大外刈りは、山本先生直々に指導していただきました。今の日本人ができない、相手の体重を刈り足側にしっかり乗せ、刈り取り、一本が獲れる大外刈りを指導。残念ながら刈り取る力の弱い私(今の柔道家)にはできない、素晴らしい技でした。大内刈りは、刈り足を半円を描くように相手の足を開く投げ方と、軸足から刈り足に完全に自分の体重をかける投げ方の2種類を指導。
  • 審判の指導
    試合形式で実践を行い、審判をさせながら指導。山本先生に全部やっていただきました。恥ずかしながら、私も含め、コーチ陣は審判経験なし。立ち位置や目の付けどころなど、その場でアドバイス。私たちは、審判、形をないがしろにしているところがあり、もっと積極的に学ばねばと反省しました…。以降練習最後に実施。
3日目
  • 姿勢と体捌きの練習
    ほとんどの生徒がすり足での体捌きができず、バタバタと動いていたため、指導員が基立ちし、技を掛けずに体捌きと組み手のみの練習をしながらアドバイスをおこなった。周りで観ているものが、指導員と生徒の動きの違いが確認できたのか、捌かれる生徒が滑稽だったのか笑い声やら感嘆の声が上がっていましたが、最後の方は姿勢を伸ばしすり足での体捌きが様になってました。
  • 寝技:亀からの、返しと三角
    技名はないが、オーソドックスな返しを指導。全般的に足のロックが甘いため内モモを絞める意識を持つよう指導。寝技は、押さえ込むものは、相手をいかに伸ばすか、逃げる方はいかに伸ばされないように体を曲げるように意識することが重要だと伝えた。
  • スピード投げ込み(3人バージョン)
    3人一組で、一人20本。全員にやらせました。やはり、有段者以外はスピード感がでず、ラオ語で「ワイワイ=早く、早く」を連発し、尻をたたきました。といいながら、見本でまず私が行なったのですが、スピードはでないは、途中で膝を捻るは情けない指導者を見せてしまいました…。やらせてみると、ほとんどの生徒が軸足のつま先立ちでの跳ね上げができず。終始意識するように指導したが、難しいようで、最後までつま先立ちはできなかったです。
  • 組み手
    コーチ陣の相四つ、喧嘩四つの組み方、捌き方、技の掛け始めを披露。手首の使い方や大きい相手、小さい相手など数種類を指導しましたが、なかなか伝えるのが難しかったです。
4日目
  • 技を受ける時の腰の切り方を指導
    ほとんどの生徒が、技を受ける時、腕力で防ごうと手に力を入れて突っ張り、腰を引く受け方だったので、払い巻きなど対応できず、すぐに投げられていた。そのため、技の受け方として、へその下に重心を置き、受ける時点で腰を突き出しながら腰を切り、相手の引き手側の手は自分の体の腰元に引き付け、つり手側は相手を突き放すよう受け方を指導。二人組でおこなわせ、ある程度理解してくれたようだった。
  • 応用技
    1. 小外刈り(掬い投げと見せかけて)
      掬い投げの要領で相手を持ち上げ、警戒したところで小外刈り
    2. 抱き込み大内
    3. 隅返し(内股を警戒させて)
    4. 腕返し
      最後にコーチ陣それぞれの得意技・特殊技を紹介し指導しました。こういった少し変わった技のほうが生徒たちも積極的に取組んでくれました。(本当は「前田式遠心力を利用して相手をいっぱい崩して投げる内股」「相手ともつれ合って最終的に上に乗る投げ」等私の素晴らしい(?)技を指導したかったのですが、ラオスにも適応者が見当たらなかったため、全般的に結構まともな技の指導に留めました。)
指導を終えて
今回の指導において、コーチ陣の中で、年齢、段位を考慮し、私がリーダーを任命されました。その中で、指導の中身については、団長方やコーチ陣、菊池先生の要望などを聞き取りながら行わなければと思いつつも、私本位で行ったり、技の説明や実技の取り入れ方の段取りが悪かったりと、もっとこうすればよかったなど、反省することばかりでした。また、計画力、指導力、統率力、ただ機械的な説明をするのではなく、飽きさせない指導方法など、指導者としてまだまだ足りないことがたくさんありましたので、今回の反省を活かし必ず次に繋げたいと思います。
インドに引き続き、二度目の海外指導となりましたが、前回同様今回も時間が足りず、残念ながら前田柔道を伝授することはできませんでした(?)。国民性の違いで、のんびり屋できつい事はあまり好まないラオスの生徒に困惑しながらも(インドの生徒に比べれば指導しやすかったです)、本来の目的である日本柔道の指導に関しては、 少しですが種を蒔けたのではないでしょうか。ラオスJUDOはまだまだ発展途上であり、練習場等の環境や現地指導者の育成などまだまだ課題はいっぱい残っています。しかし、今回の派遣指導に続き、来年以降もラオス派遣指導は予定されるということですので、いつの日かラオスJUDOが日本柔道を根幹とした技を魅せるJUDOへと育ち実を結んでくれたらこんなに嬉しいことはないでしょう。その第一歩に参加させていただき、また、言葉を超えた国際交流の機会を与えてくれた柔道に大変感謝しています。またこういった機会があったら許される限り何度もで 参加したいです。

日本で発祥した柔道(武道)ですが、現在、200カ国以上の国で行われるJUDO(スポーツ)へと発展しています。これは、世界の中(特に欧州)で、柔道を通して礼法を学び、人間形成に繋がるということで大変人気がでているからだそうです。「精力善用」「自他共栄」、柔道を通じてこういった指導・交流を行なうことが少しでも世界平和へ繋がると信じ、私自身もこれから尽力をつくしたいと思います。ゆくゆくはJICASVへ…。そういう人生のライフプランもありかなと思わせてくれた今回の指導でした。ありがとうございました。
生徒とともに
全員集合